プレイステーション、AI、そしてSmartNews――久夛良木健が語る、世界中で愛されるプロダクトを生み出す"妄想力"

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2019年6月20日、スマートニュースの創業7周年パーティーで、同社社外取締役の久夛良木健(くたらぎ・けん)氏とCEOの鈴木健氏が対談しました。その様子を紹介します。

久夛良木氏は「プレイステーションの父」。ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)時代には、初代プレイステーションを開発し、家庭用ゲーム機の世界にイノベーションを巻き起こしました。その後、SCEの社長、ソニーの副社長などを歴任。2019年6月にスマートニュースの社外取締役に着任しました。

エンジニアでもあり、経営者でもある――。久夛良木健氏と鈴木健氏にはそんな共通項があります。この2人がどんな話をしたのでしょうか。

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(左)久夛良木健氏(右)鈴木健氏

目次

プレイステーションの開発チームはいい加減? 「まず議事録取ってない」

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久夛良木 みなさんこんにちは。まずは7周年、おめでとうございます! 本当につい最近スマートニュースに社外取締役という形で参加することになりましたが、僕は最初の期待は若い人が集まっているんだと思っていたんだけど、意外とそうでもないね。(会場笑)

ということは、ベテランが沢山集まっているんだと思うんだけども、2カ月くらい通って、うん、結構面白いかもしれないと、ちょっと思い始めたところ。さっきも取締役会で、投資家のみなさんを含めて侃々諤々(かんかんがくがく)の議論をして、全然結論が出ない……というのもまた良いところかなってね。(会場笑)

さて、鈴木さんと私は共通点があって、みなさん何だと思います?「健」なんです。「健」と呼ばれると2人して「はい」と返事しちゃうから。

そんな感じで、彼とはこれからやっていこうかと思うんだけど、今日は実は何にも段取りしていません。で、もう、なるがままにという感じですが、オウンドメディアで発表されるとなると、あとで監修が入るかもしれない。ヤバイ話はいくらでも聞いてもいいんだけど、紙になってどこかに出ていくとマズい話もあるかもしれない。まあ、気にせずにみなさん質問してください。今日はよろしくお願いします。

鈴木 まずは簡単に久夛良木さん、ご存知ない方がいらっしゃる可能性があるので、簡単にササっと説明したいと思うんですけども、我々スマートニュースの社外取締役に6月から入っていただいたんですけども、ご存知の通り、「プレイステーションの父」としてですね、世界中で愛されるコンピュータエンタテインメントのプラットフォームを作り上げた方です。僕が生まれた年の1975年にソニーに入って。

久夛良木 なんだそうなの?

鈴木 はい。僕が1975年なので。44年前ですね。その後にですね、1994年に初代のプレイステーションをリリースされまして、1999年からはソニー・コンピュータエンタテインメントのCEO、そして2003年からはソニーの副社長を務められた方なんですけども、2004年には『TIME』の「世界で最も影響力のある100人」にも選ばれた、まさに世界中の、我々のライフスタイルを変えた方に来ていただいています。で、今はですねサイバーアイ・エンタテインメントという、人工知能の会社を経営されている、というところですね。

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久夛良木 何も発表しなくてね、カミさんにいつも聞かれるんだけど。「パパ、何やってんの?」って、で「説明難しいから」って誰にもしゃべってないんだけど。こないだ『ハーバード・ビジネス・レビュー』にインタビューが出て、そこでしゃべらざるを得なくなってチラッと書きましたが、AIっていろんなエリアがあるじゃないですか。

そのなかでも私好みで一番関心があるのが、やっぱり、どうやって文脈(Context)を読むかということ。これは簡単そうで、AIが研究され始めたときにすんなり行くんじゃねえかってみんな思ってたんだよね。ところが一番難しい。大脳ですからね、前頭葉とか。で、ここがライフワークとして最後には面白れえかなっと思って今やってるの。それ以上はちょっと言えないよね。コンペティターになるかもしれないし。

鈴木 (笑)そうですね。使っていただくことがあるかなって思いますね。開発したらですね。でですね、じゃあなんで、ここに久夛良木さんがいるのかっていうのをちょっと説明した方がいいと思うんですけど。なんで、この2人、健と健が出会ったのかっていうと、実はですね、(スライドの)写真にある西村(茂、スマートニュース常勤監査役)さん。西村さん、いらっしゃいますか? いらっしゃいますね。そちらの西村さんに紹介いただいたんです。どういう関係なんですか? 西村さんとは。

西村 えっと、会社の社長のときに私は執行役員。上司と部下の関係です。2000年から2006年で、(久夛良木さんがSCEの)CEOをやっていたころですね。

鈴木 「プレイステーション2」から 「プレイステーション3」の時代に久夛良木さんに仕えていたというわけですね。どんな上司だったんでしょうか?

久夛良木 今さらだからどうぞ!

西村 一番印象に残っているのはビジョナリーっていうか、目標設定ですけども「本当に高い目標なんだけどもギリギリ頑張ったらできる」あたりをパッと設定するんですね、それが一番印象に残っていますね。

鈴木 なるほど。まさにビジョナリーなところをこれからいろいろとお聞きしたいんですけども。

久夛良木 はい。時々会社に出てこなくなるときもあったからね。あ、それ内緒。(会場笑)

結局、プレイステーションって、やんちゃなっていうか、結構ヤクザな人間が集まって作った。そんな人間たちがやってることって楽しいじゃないですか。で、いきなりそれが、1993年に会社ができて、1998年、1999年あたりは売上1兆円近くまで行ったのに会社の中身は結構いい加減。まず議事録取ってない、とかね。

鈴木 そうなんですか?

久夛良木 (苦笑)とかね、いろんなことがあって、これヤバイっていうことで、ソニーから西村さんとか社内からも相当優秀な人に来てもらって、格好を何とかつけたの。で、また今回も同じだね、というような関係です。

鈴木 そういった形でですね、2人で長年仕事をされていたということですけども、去年の9月20日に実は僕と(浜本)階生(はまもと・かいせい、取締役 COO兼チーフエンジニア)さんと久夛良木さん、4人でちょっと飲みに行ったんですね。で、階生さん、どうでした?

浜本 あの、初めて発せられた言葉が、スマートニュースのアプリの使い勝手についてのフィードバックだったので、最初ビックリしました。

鈴木 どうして?

浜本 まさかそんな。もちろん使っていただいてるというのは知っていたんですけど、細かく、そう、UIをいろいろ見てもらって。

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鈴木 このフォントはいいね、とか。

浜本 突っ込みどころがものすごく細かいところまで。

鈴木 感銘を受けましたね。で、その会でですね、僕も久夛良木さんに若気の至りで、若くないんですけども、大分怒られた記憶があります、はい。

久夛良木 だっけ?

鈴木 はい……あの、はい……すごい。いきなり本質的なことでガツンみたいな。今日は怒られないようにちょっと頑張りたいと思います。

オフィスは美味しいお店があるところに構えよ

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久夛良木 あ、ちなみにこの写真の左が、大賀典雄(おおが・のりお)さんといって今は残念ながら亡くなりましたが、ソニーって井深大(いぶか・まさる)さんと盛田昭夫(もりた・あきお)さんが作った会社ではありますが、その後ちょっと1人入って、大賀さんはその後の社長です。

CDってみなさん知ってる? 知らないんだよねえ。最近、CDを知らない子がいるんだよね。コンパクトディスク。あの、コンパクトディスクであるとかMD(ミニディスク)であるとかは大賀さんが全部提案、開発してプロモートしたのね。ソニーがコロンビア・ピクチャーズ(コロンビア・ピクチャーズ・エンタテインメント)を買収するとか、ソニー・ミュージックをその1年前に買収するとか、全部彼がリードしてやったこと。

鈴木 大賀さんは元々音楽家なんですよね?

久夛良木 音楽家、まあ声楽家ね。アーティストね。だけどビジネスマンとしてこれほど優秀な人はなかなかいらっしゃらない。ホントにとんでもない馬力で。でも彼は1回も僕のことを怒らなかったね。

鈴木 そうなんですか?

久夛良木 諦めてたのかね。(会場笑)いや、ホントに。大賀さんが亡くなる直前に「僕は久夛良木君に1回も嫌な思いしたことないんだよね」って仰って「え! そうかな?」って。大賀さんがいなかったら、プレイステーションはこの世に出てなかった。

鈴木 なるほど。

久夛良木 ホントに。大賀さんの一言で、プレイステーションのプロジェクトがスタート。実はその前からサイレントにスタートはしてたんだけども、大賀さんのおかげで一応ちょっと公式になったという。大事な方です。恩人です。

鈴木 はい、はい。ね、丸山茂雄(まるやま・しげお、SCE副社長など)さんがいたとか、その辺話すと長くなるので。

久夛良木 長くなっちゃうね。

鈴木 そのビジョンのところの話に行く前にですね、ちょっと面白いの見つけたんです。ある記事に、SCEの青山一丁目オフィスについて話がありました。新しいテクノロジーを生み出すためには大事なんですか? オフィスは。

久夛良木 オフィス大事でしょ。ま、ソニーって今でも品川にあるけどね。(SCEの親会社であるソニーの)実家である品川でやるよりは、やっぱり独立してイケてる場所でやった方がいいし。で、イケてる場所って結局飲み屋が多い。基本的にはそれが一番大事ね。人が集まる。飲み屋があるってことは美味しいものがいただけるんであって、そこに人が集まるわけ。

青山一丁目っていうのはソニー・ミュージックの、あのEPICソニーというロックの部門があって、青山ツインビルってわかるかな? 相当古いビルなんだけど。あそこの場所が空くってことになり、こりゃラッキーだって押しかけてスタートしたんだ。何が良かったかっていうと、深夜0時でも24時間態勢でみんなが集まるっていう最高の場所だった。

鈴木 まったく、働き方改革の時代じゃない発言ですけども。

久夛良木 はい。

鈴木 そういうことができる幸せな時代だったんですね、ある意味。

久夛良木 え?

鈴木 幸せな時代だったんですね。24時間できる。

久夛良木 え? いやいや、今でも幸せだと思いますよ。

鈴木 あ、そうですよね、はい。(会場笑)

久夛良木 いや、あの、働き方改革も大事だけど、好きなこと考えてやってるのが大事ですね。

鈴木 好きなことに没頭しつくして。

久夛良木 しかも、みなさん、ここ原宿だよ。

鈴木 どうなんですか? スマートニュースのオフィスは?

久夛良木 うーん、いいんじゃない?(会場爆笑)いや、まだみなさんの場所はちょっとお伺いしていないから何とも言えないけども、すごく親近感があるというかホッとする、かな。雰囲気とっても似てるんだよね。これ別にスマニューに限らず、こういった新しいシリコンバレーの会社とも随分噛んでいるけどもみんな似ている感じ。ネクタイしてる人もいないしね。好き勝手に、服装自由。

鈴木 自由なカルチャー。

久夛良木 ねえ、自由なカルチャー。あと、いろんなジェンダー、国籍もいろんな方たちが混ざってる。で、スペシャリティーも、いろんなところの得意技も違うしね。それらが集まってる感じ? 一方で、あの日本の会社みたいな、どこ切っても同じような人たちが沢山いるような、そんな感じは全然ないから。当たり前だけども、いつもの場所って感じがするね。

鈴木 なるほど。大分インターナショナルになりつつありますね。プロダクトのことも聞きたいんですけど、SmartNewsのユーザーとして、これだけは言っておきたいとか、こう変えて欲しいとか、何でもいいんですけど、ありますか?

久夛良木 それ言ったらキリがないよ。(会場笑)

鈴木 キリがない?

久夛良木 それはこれから。

鈴木 これから?

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久夛良木 これから。でも数年前からずっとスマニューのユーザーで、圧倒的に僕はUIがいいなと思ってましたし、やっぱこれ、普通にWebアプリでプログラムを書いていたらこんなにできないよね。相当頑張って書いてる人がいるんだなっていうのと。カラーリングとかね、デザインがすごくいいと。細かいところがイケてるんだよね。このアプリ作ってる連中はいいだろうなってずっと思ってたの。

鈴木 ホント、うれしいです。

久夛良木 ホントに。これ数年前から。

鈴木 数年前から? あ、そうなんだ。

久夛良木 その後あんまり進化がないような気がする。(会場爆笑) いや(苦笑)、今仕込んでるんだと思うんですが。これから、これからだと思う。みなさんもいろいろ感じてると思うけど、これで5Gが始まって、AIも当然いろんなAIが動き始めるなかで、いろんなものがリアルタイムになってくる。メディアが文字からどんどん動画になっていって、かつリアルワールドと完全にリンクし始めるので、そうなると今まで人類が手にしたことがないアプリケーションが沢山提案されてくる時代だと思います。来年とかね、頑張ってください。

鈴木 はい。

久夛良木 サラッと。

ハードウェアもソフトウェアも全部わかっていることが「すごい」

鈴木 はい。すぐやらないといけないですね! 社員のみなさん、バンバン久夛良木さんといろいろ話してですね、アイデアをディスカッションしてですね、明日までに実装しましょうぐらいのスピードでぜひやりましょう!

そんな久夛良木さんにですね、我々はこう、飲みに行ってですね、その後、日を改めて取締役になっていただけませんか? ということをお願いしたわけですね。なんで久夛良木さんに入っていただこうと思ったのかというと、二つ理由がありまして。

1つは、先ほど久夛良木さんご自身から説明がありましたけども、実はプレイステーションっていう事業は設立から8年でグローバルで1兆円の売上まで成長しているんですね。8年間で1兆円まで駆け上がっていくんですね。こういった事業、ハードウェア、プラットフォーム、コンテンツ、あらゆるレイヤーをカバーしながら、日本の売上よりも海外の方が大きいという事業を率いてきたわけです。その経験たるやすごいな、と。僕らが見ていない世界を知っているな、ということで、知見をいただきたいな、ということが1つであります。それについては何かありますか? さっき話しましたけど。

久夛良木 うん。なんか全部話したよね。

鈴木 はい。そうですね。じゃあ次行きましょうか。(会場笑)

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久夛良木 このグラフって2015年までしかないけど、今2兆円くらいになってる。

鈴木 また伸びてるんですか?

久夛良木 うん、今2兆円くらい。「プレイステーション4」がっていうよりは、ビジネスモデルも全部変わっていて、ただ単にネットでディストリビューションするだけじゃなくて、コンテンツそのものの楽しみ方が変わってるわけ。ディスクを単に送るんじゃなくて、ネット側にサービスがあって、かつそのサービスをもとにコミュニケーションをする。それが実際、最も楽しいことなので。そこに軸足が移ってるわけ。だから今、急激にユーザー数が伸びて、多分、2兆円になってると思う。内緒の話かもしれないけど。

鈴木 内緒の話!? ソニーが発表していない?(編集部注:ソニーの2020年3月期連結売上高の見込みはゲーム分野で2兆2000億円)

久夛良木 ソニーの利益の半分近くがプレイステーション関係で叩き出してるのね。

鈴木 すごいですよね。そういった事業を作り出した方から我々もちょっと学びたいと思っています。毎月1回来ていただいて取締役会に出席してもらっています。

2つ目はですね、ここからが大事なんです。これまでも大事だったんですけど、ここからが大事なんです。久夛良木さんはですね、実は超天才エンジニアなんですね。みなさん、ご存知かどうか知りませんけど、そうなんです、実はエンジニアとして素晴らしいご経験をお持ちで、あの、この写真は何年くらいのものですか?

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久夛良木 髪の毛が長いから相当昔だと思うけど、えーとね、これって30くらいかな。1981、2年だったと思う。

鈴木 この頃はどういうことをやられていたんですか?

久夛良木 これ何やってるかっていうと、コンピュータを作ってたんだよね。その頃ってまだIBM PCも出てないし。「Apple I」(アップル・ワン)が出ても、どっちかっていうとおもちゃみたいだったのね。そのときにあの、完全に今のパソコンとかワークステーションレベルのものが欲しかった。でも売ってないじゃない。だから自分で作ろうっていうんで、同僚と2人でチャレンジしたんだよ。コンピュータのハードウェアだからね、もちろんICは作れないけど、それからBIOSからOSからコンパイラから、ソニーで1人で書いてたんですよ。

鈴木 そうなんですね!

久夛良木 というのが入社3年……6年目、7年目かな? だから基本的には僕はソフト書くのも大好きで。

鈴木 大好きなんですね!

久夛良木 ハードも好きで。どっちも同じエンジニアリングじゃん。僕らの時代ってほら、オートバイを作った本田宗一郎さんとかもそうだけど、エンジンがどうやって動いてるかってわかっているわけ。ピストンリングがどこにあって、カムがどこにあってって。だから、そういったのって、昔の時代って全体を見えていたわけよ。コンピュータにしてもブラックボックスは一切なかった。

今の関心事だと、例えばAIだとブラックボックスってみんな言うじゃないですか。でも研究者からするとそんなこと全然なくて、全てのパスをわかっているわけですよ。ただ、わかっていることを証明しろっていう質問は来る。それって人間が生きていることを証明しろっていうくらいくだらない質問なので、ちょっとみんな黙ってるわけですよ。だからね、やっぱり全部わかるっていうのは、すごい。上から目線で言ってるわけじゃなくて、原理そのものを何となく理解しているというのはシステム全体を考えると、とっても大事だと思うね。

鈴木 なるほど。

デジタルが異端だったんじゃなくて僕が異端だったの

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久夛良木 だからビジネスモデルを考えるとか、例えばSmartNewsのアプリを触っているときに、どうやって実現しているんだろう? っていうのを妄想するわけよ。ここはきっとこういう風にやっているんだろうな、って。

それでこう、いろいろと調べ始めるわけ。それで違っていると、また違うからこうかな? ああかな? ってやって、そのうちにある意味ではシステムのリファクタリングしているような形で。結構ね、そんなことで楽しめるのね、エンジニアって。このなかってエンジニアの人いる? 何人くらい?

鈴木 エンジニアの方、何人くらいいます? 手をあげてもらえます?

久夛良木 おー! もっと、もっと欲しいよね。

鈴木 手をあげてない人が沢山いました。(会場笑)

久夛良木 それで、たまたまそのときはコンピュータを作っていて、多分、日本で一番最初に作ったコンピュータに近いくらいの頃に動いてたのね。

鈴木 そうなんですね!

久夛良木 で、ここで作ったコンピュータで、アセンブラとかコンパイラとか作って、ソニーのデータマップとかカセットテープレコーダーとかのシステムをコントロールする8bitとか4bitの「マイコン」ってよく言っていたけど、その開発を僕の作ったコンピュータ上でやってたの。

鈴木 そうなんですね。

久夛良木 というのがこの時期。

鈴木 で、その後ですね、大変こう、有名な会社のお仕事、「SPC700」(※)、これはあの「スーパーファミコン」に搭載された……。

※ソニーが開発したスーパーファミコンに搭載された世界最初のゲーム機専用デジタル音源システムはエフェクターを含む全てのデジタル信号処理を担当する Sound-DSP と、楽譜データや効果音等の制御を担当するシーケンサー SPC-700 に加え、音源専用の Sound Memory 群を含むシステム構成となっている。

久夛良木 ……SPC700って、わかる人いないでしょ? あの、スーパーファミコンで遊んだことある人? ほーらやっぱりね、ありがとうね。スーパーファミコンっていうのは我々と任天堂の第二開発部部長の上村雅之(うえむら・まさゆき)さんのチームと一緒に作ったの。

当時のゲームの音ってひどかったのね。ピコピコとしか鳴らなくて。まず四分音符しか鳴らない、和音が鳴らない、音の揺らぎがないとかね。で、我慢がならなくて、どう考えたって全部デジタル音源でやった方がいいよねっていうんで、我々2~3人でSPC700っていうシーケンサー用のマイコンを作って、任天堂さんのスーファミに載せてもらったわけ。だからみなさんが聞いているスーパーファミコンの「ファイナルファンタジー」も「ドラゴンクエスト」も結構音が良くなったでしょ? あれは我々と任天堂さんが共同開発した、てか我々のチームが作った音源のICチップだったんです。

鈴木 久夛良木さんが設計したチップによってですね、スーパーファミコンのゲーム音楽が鳴っていたわけですね。実は「プレイステーションの父」だけじゃなくて「ゲーム音楽の父」なんですね。

久夛良木 ……うーん……なことはないんだけど、ちょっとサポートしただけだよ。(会場笑) だからこの頃のICチップを作るのって面白いんだよね。みなさん、作った経験ある人って何人くらいいます?

鈴木 作ったことある人?

久夛良木 いないかあ。あの、何十万個ってあるトランジスタを組み合わせるんだけども、基本的にはこの開発は全部ワークステーション上でやるんだよね。当時のワークステーションってすごく高くて、そのときにソニ—が「NEWS」(ニューズ、Network Engineering WorkStation)っていうワークステーションを出したばっかしでした。その上で開発環境を作って、チップの設計を全部やって、デバイスドライバも全部開発して、結構面白かったよね。

ワークステーションっていうのは僕らにとって夢だったのね。だからそれを遊びのために使えるようなコンピュータが欲しいよねって。遊びのためのコンピュータって何かって言ったら、当時『ターミネーター』って映画あったでしょ?『アビス』って映画見たことある? 海底に行くと水の塊みたいなのが出てくるね、そんな映画とか。

その前には『トロン』って映画もあったか。ワイヤーフレームでね。当時のコンピュータグラフィックスってリアルタイムで動かない。1つのフレーム作るのに30分くらいかかる。当時の最高のコンピュータを使って。映画って1秒が24コマ。だから大変なコストと時間を1年も2年もかけて、映画を作ってたのね。

そのときに思ったのが、「これ、リアルタイムで動かしたいよね」っていうのがあって、その夢が今のプレイステーションになったんだよね。そのときのネーミングね、「WorkStation」に対する「PlayStation」。遊びのための。あの、WorkStationって、コンピュータだけじゃなくて「作業机」っていう意味もあるのね。遊ぶためのプラットフォームが欲しい、っていうことで作ったのね。

鈴木 それはその、任天堂さんとの共同プロジェクトだったのが、いろいろと紆余曲折あって、ソニー単体での単独のプラットフォームとして展開するのが1994年になるわけですけども、ちょっとそのお話はまた後でお聞きするとして、この当時のソニーって、エレキが強くて、デジタルっていうと異端中の異端だったっていう認識であってるんですか?

久夛良木 デジタルが異端だったんじゃなくて僕が異端だったの。

鈴木 あ、そうなんですか!?(会場笑)

久夛良木 人の言うこと聞かないしね。あの、自分のやりたいことはすごくハッキリしていてバンバン言うし、ということで。でも、ソニー全体で見ても、いやソニーに限らず当時の日本ってアナログ、メカニカルが、やっぱりそういった産業が主だったんだよね。

みなさん多分あのNHKの特番見ると、例えば「電子立国」とか「自動車王国」(「自動車王国物語」シリーズ)とか。元通産省がね、護送船団方式を作って、戦後の日本を復興させようとしたじゃないですか。そのためには、やっぱりその、コンピュータとかデジタルとか、そういったところが置き去りになったんだよね。それが有名な日米半導体摩擦で、コンピュータで後ろ手に縛られて、っていうのがあったじゃないですか。

妄想こそデジタルテクノロジーの本質

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鈴木 はい。で、そういうなかでデジタルというところに踏み込んでいくわけですけども。デジタルのテクノロジーの本質って何なんですか?

久夛良木 デジタルテクノロジーの本質? いいこと聞くね! 妄想したものは何でも実現できること!

鈴木 妄想したものは何でも実現できる。なるほど。確かにそうですよね。

久夛良木 ていうか、論理的にプログラムできるんだよね。最近のAIはプログラムもいらないけどね。

鈴木 確かに。妄想したものがそのまま実現できるのがデジタル――。

久夛良木 (かぶせ気味に)非線形だってことだよね。メカもアナログの電気製品もどちらかというとリニアなので。やっぱり、何にでもなれるわけじゃない、限界がある。

鈴木 限界がある。デジタルは、例えば仮想マシンとかもそうですけど、仮想的なものに仮想的なものを重ねていくらでも受け付けますよね。それがやっぱりデジタルの本質である、と。

次なんですけども、その、デジタルコンピュータとエンタテインメントというものを結びつけるというのが、まさに久夛良木さんがこの世界に打ち出した概念だったわけですね。つまり。久夛良木さんはいろいろな場所で言っているんですけども、ゲーム産業ではコンピュータとエンタテインメントをつなげると。これがプレイステーションがやったことだと。これはどういうことなんですか?

久夛良木 これはね、僕個人のロマンなんだよね。コンピュータに対してちょっとロマンチシズムがあって。それとエンタテインメントを結びつけるって、その造語(コンピュータエンタテインメント)は元々僕が考えたんだけど。今じゃ会社の名前が変わっちゃって、インタラティブエンタテインメントってつまんない名前になったけど。でもね、そのコンピュータエンタテインメントっていうのを一番最初に感じたのは、実はプレイステーションでも任天堂でもなくて、基本的にはPixar(Animation Studios)。

鈴木 Pixarなんですね。

久夛良木 みなさん、「SIGGRAPH」(シーグラフ)って学会があるの知ってるかな? いろんな学会に行ったなかでこれが一番楽しかった。なぜかっていうと、例えば半導体の学会とかいろいろあるんだけども、SIGGRAPHだけはロサンゼルス(LA)でやるんだよね。LAとかオースチンとかいろんなところでやるんだけども。

鈴木 LAですね。

久夛良木 2種類の人たちがいるわけ。1つはテクニカルなギークたち。とってもオタクな連中と、もう1つはエンタテインメント側にいる人たち。この2つが一緒になってるこの、学会とはいいながら、これが無茶苦茶楽しくて毎年毎年行っていたんだよ。

鈴木 毎年行ってたんですか?

久夛良木 毎年行っていて。ソニーの良かったのは「行きたい」って言ったら「行け」と言ってくれる。まあ僕は「行け」と言われなくてもそのまま勝手に行ってしまうって感じて行っていたんですけども、それである映像を見たときに衝撃を受けたね。

『ルクソーJr.』(1986年)という有名なショートムービーで、YouTubeでも見られると思います。親子の電気スタンドがあって、その親子の電気スタンドが、電気スタンドなんだけどもヒューマニックな動きをするんだよ。ただし、まだノンリアルタイムで、オフラインでレンダリングしたものなんだ。作った人は有名なジョン・ラセター(映画監督、アニメーション作家)だよね。これを見て僕は大笑いするくらい衝撃を受けて、「これだ! これリアルタイムで動かしちゃおう!」っていう気になった。

鈴木 80年代後半のSIGGRAPHでそれを見てしまったと。

久夛良木 そこの会場にいたからね。

鈴木 なるほどね。

久夛良木 それで、プレイステーションやろうかって考えた。元々やりたかったんだけど、これだよ! っていう。

鈴木 これすごいいい話ですよね。スティーブ・ジョブズがゼロックスのパロアルト研究所に行って、アラン・ケイの「Alto」を見てしまったのと同じくらい衝撃的だったわけですね。これを作るぞ! と。

SIGGRAPH最大の収穫とは

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久夛良木 でもこれはテクノロジーだけではダメで、そこにはクリエイターがいて、お互いがエンタテインメントを作るんだと思わない限り出てこない。

鈴木 なるほど。

久夛良木 それがそこにあったっていうのがね、やっぱり一番大きな、僕にとっては収穫だったね。

鈴木 インスピレーションをもらったSIGGRAPHでその、例えば、CPUを作るんだったらIBMのWatson研究所の人がいいんだとか、そういったことを全部発見していって、その後のプレイステーションに全部ついたっていうことですけど。

久夛良木 それは僕がリサーチャーだから。世界中で今誰が何をやっているかっていうのを大体わかってるつもりになっているのがリサーチャーなので。エンジニアのみなさんは論文をしょっちゅう読むよね? 論文を読めば誰が何をやっているかがわかるんだ。論文って最後にリファレンスが出ていて、どういう時系列で誰が何をやってどう失敗して、どこでブレイクスルーがあって細かく書いてあるからね。まあ、ああいうのを追っているのは技術オタクなんだ。

ただ、そういった人たちだけでは面白いものは作れなくて、やっぱりそこにコンテンツとかエンタテインメントとか、コンテンツ作る人も沢山いるわけ。絵を描く人も。それからコンテンツのことを深く理解しているプロデューサーがいないと作品にならないよね。それらがみんな、偶然のように集まったのが、SIGGRAPHだったの。

鈴木 そこで、その、ソニーの中だけで閉じるのではなくて、世界中のベストプラクティスを集めてしまおう、オープンにやろうって、もう組織の壁を越えてお願いしにいった。

久夛良木 組織の壁というのは自分の中になかったからね。だって、そこに楽しい人、すごい人がいたら必ず声をかけるんだよね。「ちょっとちょっと、CGのリアルタイムレンダリングについて、あなたはどう思う?」っていう感じでね。その人の隣でいろんな話をする。やっぱり、GiveがなくてTakeだけしていると相手も二度と会ってくれないから、お互いがインスパイアされるような、そういった環境を作る。

鈴木 その、クリエイターやリサーチャーの人たちも、会社の壁を越えて、全部うちのチームだと。だから、そういうオープンなやり方でプレイステーションを作ったし。あと、あれですよね、そこで生まれるゲームのコンテンツ。ゲームクリエイターとしてクレジットとして映画みたいに出していくっていう。

久夛良木 よくありがちだったのは、例えば、A社、B社、C社ってみんなファイヤーウォール作って、ノウハウっていってブラックボックス化って言ってみたりするじゃないですか。そういう時代があったわけ。ところがやっぱり、今のインターネットがそうであるように、基本的には情報はみんなで共有して、ベストプラクティスはみんなで共有した状態でその次の段階に行く。それをした方がはるかに良いでしょっていう。やっぱり、そういうやり方で開発が進んでいった1つの結果がプレイステーションだったわけね。

プレイステーションっていうのは、初日から、ありとあらゆるものが入っていたんだ。世界中の人たちのベストプラクティスが入っていて、それでみんながコンピュータエンタテインメントっていう思いを持ってやったから、急速に世界中に浸透した。ベストプラクティスもなく、思いもなかったらこんなにまとまらないよね。「ふーん、俺らは別のもの作るからね」みたいになるじゃないですか。

鈴木 そうですね。

久夛良木 だけどプレイステーションだったら「おーっ、プレイステーション!」って、今でもそうだけど、プレイステーションという言葉が出てきただけでみんな、顔がパッて明るくなるんだよね。それは多分、プレイステーションが自分たちのものだって思ってるからなんだよね。

鈴木 プレイステーションになってから、ゲームはこんなにオープンに作れるんだ! みたいな。新しいエコシステムが生まれたという実感、ホントにしましたよね。

実はスマートニュースは3年前にSIGGRAPHのスポンサーをしていました。僕もSIGGRAPHをウォッチしていますが、久夛良木さんほど事業に活かせていないのが悔しいところですけど、まあ、80年代にSIGGRAPHにいらっしゃった久夛良木さんが90年代にプレステで結実するわけですから、僕も後3年くらいすると多分結果になるんじゃないかと温かく見守ってください。みなさんもいろんな学会に行っていただいて。というか、SIGGRAPH、本当に楽しいです。ぜひ、ぜひおすすめです。

5Gネットワークで「The Net」が実現する?

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鈴木 ここからはビジョンの話を深く聞いていきたいんですけども、プレイステーションの初代が出て、2が出て、そして3をいよいよ出そうというタイミングで、これですね。ネットワークとの本格的融合時代が来るだろうと、いうことで、ネットワークにプレイステーションを溶かしたい、ということをずーっと言っていました。これは今でいえばクラウド・コンピューティングの概念ですね。これは2000年くらい。

久夛良木 2000年。1999年か2000年だったかな。

鈴木 本当にインターネットが出てきた当時だったんですけど、このときにネットワークに溶かしたいって言って、みんなわかってくれたんですか?

久夛良木 うん。誰一人として。

鈴木 そうですよね。

久夛良木 誰一人として。

鈴木 西村さんは全然よくわからなかったって言ってましたね。

久夛良木 誰一人として。(少し悲しそうな声で)誰一人として。(会場爆笑)

でもね、5~6年経ったら、さすがに「あのとき、久夛良木さんこんなこと言っていたっけ」っていう話もあったよね。初代プレイステーションは誰もノーマークで、絶対失敗するどころか、そんなことも記事にならなかったんだよね。当然失敗するってみんな思ってたからね。そんな状況で2年後くらいに100万台ぐらい売れた。あ、100万台売れたのは2年かからなかったか。(編集部注:生産出荷台数100万台達成は1995年5月。初代プレイステーションの発売が1994年12月なので6カ月ほどの期間だった。200万台も1995年内に達成している)

次は競合相手は何ですか? ってみんな聞いてくるわけ。メディアの連中がね。彼らは、任天堂やセガといったゲーム会社を僕が言うだろうと期待して聞く。そのときに僕が言ったのが「たぶん携帯電話ですね」。

鈴木 おー。

久夛良木 それは、まだiPhoneが出る前。でも、コミュニケーションがエンタテインメントのなかで一番大きな部分を占めているわけで、主役はやっぱり携帯電話だよ。

鈴木 そこに、ネットワークにプレイステーションとかも溶かしていきたい、と。

久夛良木 次にプレイステーション2を出すときに何ですかって聞かれたら、ネットに溶かしたいと。でもそれも誰一人として全然理解しない。今だったらもう当たり前なのにね。

鈴木 そこで次の質問なんですけども。まさにネットワークの本質っていうのは何なのかっていうのをぜひ。インターネットの本質とは何ですか?

久夛良木 インターネットの本質って、ありとあらゆるノードがつながるわけじゃない。みなさん、インタレストグラフって言えば大体わかると思うけど、世界のあらゆる事象はグラフ構造で説明できるかなあと思ってるのね。例えば、さっき言ったコンテンツね。コンテンツも基本的にはいろんな知識であるとか、その場のいろんなリアルの世界のいろんな状況のなかでグラフ構造があって、それが人間の脳の中で連鎖反応的に発火するわけ。やっぱりその、ネットワーク構造を、まあ1つの通信で作ったのがインターネットね。

鈴木 なるほど。

久夛良木 今のインターネットってまあ、光回線でつなぎますか、5Gでつなぎますかって言うかもしれないけど、今や、5Gでつながるのは回線じゃなくて、世界中の全てのサーバー、もしくはクライアントがリアルタイムでつながるってことでしょ。

これがデカくて。個々のコンピュータがつながるんじゃなくて、全部有機的に1つの「The Net」っていうものが、ひょっとしたら知能のレベルまで持っていけるかもしれないって状態でつながる。これが次の5Gネットワークなんだよね。

今までのネットワークっていうのはつながる、ひたすら信号を送って取る。もちろん、あるノードからあるノードまでってのがあるけど。これからはそうじゃなくて、AI。ひょっとしたら、みなさんあの、リアルとサイバーってよく言うじゃないですか。もうそういう区別がなくなると思うね。もうサイバーとリアルはリアルタイムで同期して一緒と。そうなるとインターネットって、割合と古典的な言葉になると思う。

デバイス主導のVRは「やりたくない」

鈴木 サイバーとリアルが繋がって区別できなくなってくる。そんな世界、まったく打ち合わせしていないんですけど、ARとかVRとかありますよね。この一番左側は「電脳コイル」って大好きな磯光雄さんのアニメなんですけど、デンスケって犬が本当に生き物のように、リアルかのように生き生きと、ARグラスの中にいるわけですね。で、この、あの(投影スライドの)真ん中にある、マイクロソフトのホロレンズ。この辺の領域って注目されているんですか?

久夛良木 あのね、ARっていうかVRは実は今から30年くらい前に1回流行ったんだよね。

鈴木 ああ、ブームがありましたね。

久夛良木 その頃「ダモクレスの剣」(米国の計算機学者アイヴァン・サザランド氏が開発)という、頭に無茶苦茶重い機械をつけて、こんな太いケーブルでコンピュータにつないで、こう見てたんだけど。その頃って今よりもずっと装置の方が主体だったんだよね。今だとヘッドマウントディスプレイ(HMD)ね。やっぱり今でも装置が先に立っちゃう。HMDをかぶります、ホロレンズをかぶります、と。本来だと我々が見ているものは、もっと直接的にわかる。裸眼で見ている今をリアルの世界だと思ってるでしょ? だけどそうじゃないかもしれない。だから脳と直結できるような時代になったらそういう風になるんだよね、結局は。

鈴木 我々が見ているものは脳の中で再描画されているわけですからね。

久夛良木 合成されているものだからね。そこまで行くだろうなと僕は思っていて。だからその、個人的にはHMDというディスプレイとか、ホロレンズみたいな物理的なデバイスにあんまり興味ないんだよね。

鈴木 ないんですか?

久夛良木 装置にはね。だけどそこで考える世界、リアルワールドと人間の意識と、脳が有機的につながったら何が起こるだろう、って考えるとほとんど医療の世界だよね。幸せにも不幸せにもできるかもしれないし、自分の考えとか思いを投影できるかもしれないし、テレパシーを送れるかもしれないし。

昔のことを知りたければ、膨大なデータベースの中で再構成すれば、仮想的なタイムマシンだってできちゃうわけだよね。そういう風に考えると、実は本当にエキサイティングなことで、今やってるARとかVRとか、MRはちょっとやっちい(やりたくない)かなって。

鈴木 ちょっと面白いことを言う人がいて、ソニーの初代の「ウォークマン」が実は世界で初めてのAugmented Reality(拡張現実)デバイスだって。それまでは音楽って、どこかにでっかいデバイスがあってそこに行かなければいけないんだけど、ウォークマンは走りながら音楽を聴けるわけですよね。そうすると、ロッキーの音楽を聴きながら走ると、映画のロッキーになった気分になるじゃないですか。普段のジョギングがロッキーになるわけですよ。

久夛良木 ホントにそうだと思う。ソニーに入社した年に言ってたのかな、これはね、笑っちゃうくらい楽しかったね。それまではラジカセ肩に担いで。(会場爆笑)

鈴木 (笑)ホントに!?

久夛良木 いやいや日本でなくて、LAのロングビーチ辺りだとラジカセ肩に担いで、馬鹿でかいウーファーで低音が出るやつね。

鈴木 じゃあ最後のコーナーに入るんですけども“ザ・我々の共有テーマ”である「AI」です。このグラフィックわかります? 何でしょうみなさん。「HAL」(『2001年宇宙の旅』の登場するAI)ですね。「HAL」。いかがですか?

久夛良木 これはねえ、早川書房から出てた本をもう何度読んだかわからない。ホントにもうロマンチックで。スタンリー・キューブリックが映画化したときに、これは人類史上最高のSFだと。未来へ行くタイムマシンをあの頃誰か持ってたんだね。

鈴木 見てきた人がいるんじゃないですか?

久夛良木 見てきた人がいるんだね。あれ、ほとんど現在のリアル、というかちょっと前のリアルを全部。それを1967年に映画化したじゃないですか(編集注:米国及び日本での公開は1968年)。あれはねえ、ホントに誰か未来を見てきたっていうくらい、1つも間違えていない。

今でいうクラウド・コンピューティングみたいなものがHALの中にあるんだよ。HALそのものがコンピュータだけども、ちゃんとクラスタがブレード状にあってね、1枚ずつ抜くと、抜いた分だけ知能が、IQが下がっていくんだよね。で、しゃべるスピードも落ちてくる。なんてリアルなんだろう。

ニュースそのものは「最大のコンテンツ」

鈴木 その頃からAIへの情熱を持ってらっしゃって、今いよいよディープラーニングも出てきて、そのAI自体がローンチというか。AIもなんか4回くらいブームがあって、ブーム後は全部跡形もなくなったんですが、今回のAIはかなり本格的な実用性があるところまで来ているわけですね。そういったなかで今、どういう未来を見ていらっしゃいますか? AIの未来というのを。

久夛良木 AIの未来、みんなが頑張るんだよね? みんなが作るんだよね? これから。でもAIとエンタテインメントをぜひ一緒にしたい。「AIエンタテインメント」って名前も多分ないと思うけど、どうですみなさん。AIに対して、どういう夢とどういう感覚を持っているんだろ。例えば「便利なツール」とかね。「すごく自分にとってとっても大事なパートナー」とか。どういうイメージなんだろうね、みなさんAIに対してね。

鈴木 じゃあちょっとですね、最後駆け足になるんですけど、いくつか聞きたいと思うんですけど、我々、ニュースっていうかメディアをやっているんですけど、ニュースとかメディアの本質って何だと思いますか?

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久夛良木 ニュースとメディアの本質? メディアっていうのは媒体だからね。媒体っていろいろな言い方であるけども、コンテンツとメディアって僕は大学院で教えてたりするんだけど、メディアっていうと日本でいうメディアとちょっと違うね。ニュースそのものっていうのは最大のコンテンツだと思っているね。

鈴木 最大のコンテンツ?

久夛良木 やっぱり人間ってニュースをまず真っ先に、なになに?という好奇心から始まるよね、朝は。今のニュースって、昔のオールドメディア、我々と生きてきたオールドメディアの上に乗っかってるものが今ネットに載ってるじゃないですか。

「CNN」ってみなさん当然知っていると思うけど、ソニーがスタジオでしか使えなかったようなカメラを肩に担げる10キロぐらいの重さにした時期ってあるのね。「BETACAM(ベータカム)」という放送用のカメラシステムを作ったんですが、それを真っ先に採用してくれたのが、テッド・ターナーのCNN。ちょうどイラク戦争が起こって、バグダッドが燃えているというのを、そのカメラを持って行って、それをブロードキャストで流したっていうのがCNNの始まりね。つまり、ニュースがスタジオから外に出たんだね。それまでのニュースってそうじゃなくて、スタジオで読み上げる、それがニュース。それが外に出て。

鈴木 カメラのサイズによって変わるわけですね。

久夛良木 そう。そんなカメラが今やスマホに搭載されてますよ。今やもうスマホがあるから、スマホを持ったら、みなさんがブロードキャスターになって、ライブストリームでアップロードできるじゃないですか。となっていったときに、これが5Gになっていって、AIが組み込まれたロボットが自律的にいろんなものを、例えば物理的な空間を動いたり、もしくは編集したりマッチングしたり、するようになるよね。

そうなったときのコンテンツってみなさん、妄想できる? 決して今のスマートニュースとかYahoo!ニュースとかみたいな、文字が並んでいて、固定のサムネイルがちょこっと並んでいるようなものじゃないよね。それをみなさんと一緒に作っていきたいな。

鈴木 それをみなさんと一緒に作っていきたいと! ということですね。ありがとうございます!

久夛良木 みなさんよろしくね!

世界中で使われるようになるには「妄想力の豊かさ」が必要

鈴木 はい。この後、Q&Aに移りたいと思うんですが。最初の質問から読み上げますね。現在のインターネットサービスはほとんどが米国発だと思いますが、そのような状況のなかで日本発のSmartNewsが世界中のユーザーに使われるようになるために、一番必要なことはどんなことだとお考えですか?

久夛良木 やっぱりね、どんだけ妄想力が豊かか。何かいろいろ考えるときに、これは難しいかなとか、これはまだまだかなとか、自主規制しちゃうんだよね。考えるときに。多分こうかな、ああかなって。

だけど、妄想したものはアルゴリズムに変換されて実現可能なのよ。だからどれだけいろんなこと考えだして、すぐインプリできるか。で、インプリしても結構つまんないこともあるんだよね。あれ、おかしいな? みたいな。そういうことがあるから、そこですぐに、自分でコーディングしていると思うので、これから、ああかなって、もうしょっちゅういろんなものを試してみる環境がとっても大事だね。

鈴木 妄想力と試し。

久夛良木 多分みなさん、このなかにエンジニアの方もいると思うし、いろいろなアイデアを持っている人がいると思うので、こんなことできるかも、って思ったら臆せず、いろんな人と話をして。すると何人かね、方法論は別として「できるかもしれん」と思ったら、まずやってみることだよね。

鈴木 まずやってみる。勇気づけられることですね。

久夛良木 これをね、さわやかにやってるのがアメリカのテレビドラマシリーズ。技術的なことはどうでも置いておいて、とりあえず映像になってしまえば勝ち、みたいなのがあるんで。あそこにはアイデアの塊があって、すぐにも実現したいと思うものが沢山あるじゃないですか。大きな会社にいって、1年先、2年先の商品担当していると、そんなものやらせてもらえるチャンスなかなかないから。みなさんみたいなスタートアップの会社っていくらでもやれそうな気がすんのね。そのために営業の方に頑張って儲けてもらって!

鈴木 イノベーションも原資次第ですからね。よろしくお願いします!

久夛良木 とんでもないものを考えて、スマートニュース・フェーズ2や3をぜひ!

地域別の市場より老若男女に使ってもらえるか

鈴木 2つ目の質問なんですけど、アメリカでの市場獲得に関して、製品開発のなかで意識したことは何ですか?

久夛良木 製品開発って、プレイステーションは日本だけって考えてもいなかったの。元々ソニーが日本だけでしか売れないものを考える会社じゃなかったので。一番のチャレンジはアメリカとかヨーロッパとかじゃなくて、実は我々のなかで、なんで世界の人口の半分の男しか(ゲームに)興味がないんだろう、ということ。

女の子は別のものに興味があるからね。それでプレイステーションで、ぜひ家族で遊びたいと思うような、そういったプラットフォームを、そういったコンテンツを作ろうよ、と。そのためには、まずアメリカやヨーロッパの前に女性だ、と。

日本でのCMは最初に「1、2、3」(編集部注:発売日の12月3日にかけたもの)と呼びかける内容で、シャッター叩く動画から始まったけども、その後で意図して家族を出したイメージ広告を沢山出したのね。覚えてないかな? 結局、プレイステーションの発売2〜3カ月くらいで、新しいソフトを展示する内覧会とかやると、女性のお客さんというか家族連れのお客さんが沢山来て、そのまま女性ゲーマーが増える一因になったね。

鈴木 なるほど。

久夛良木 やっぱり任天堂の「ファミコン」の時代って、ゲームは男の子の遊びだったから。で、小学校とか中学校で大体ゲームを卒業してみんな、スポーツとか車とか他に行っちゃうわけで。音楽とかね。

鈴木 昔『パラッパラッパー』とかやったな、みたいな。

久夛良木 パラッパラッパーやったことある人? タマネギ先生とかね。パラッパラッパーを作ったのは松浦雅也さんで、彼は「PSY・S」っていうバンドのミュージシャンね。

鈴木 もう日本だけじゃなくて老若男女含めてあらゆる人に使ってもらえる。

久夛良木 世界中の全ての人、年齢もなるべく広い、当然女性も。例えばヨーロッパって結構独自の文化があって、外から入ってくるものに割合と抵抗がある国が多いんだけども、プレイステーションに関しては、自国のものくらいの感じでみんな遊んでくれたよね。

鈴木 なるほど。

久夛良木 プレイステーションに関してはまったく「入れてくれるな」みたいな国もチャンネルもなかったね。

プロジェクトの達成に予算は必要なのか?

鈴木 あと2つ質問があるんですけども、昔スーパーファミコンのゲームを趣味で開発していたとき、久夛良木さんが関わった、SPC700というチップを使う機会があり、「設計者がこだわっているなあ」「製品というより作品だなあ」という感想を持ちました。技術者としてこのような製品を設計、製造し、世の中に流通させることに成功したわけですが、その過程で何が成功のポイントだったと考えていますか?

久夛良木 なんか随分真面目でつまんない質問だなあ。そんなこと考えてやってないよね。好きなことをやって楽しいことをやればいいじゃん、みたいな。かつ、自分ひとりじゃできないので、得意技を持っている人を、チームを集めるんだよね。会社で組織を作るんじゃなくて、ここの部分はこいつ、ここはこいつみたいな即席のチームを作って、やる。会社の組織じゃないんだよね。

組織がどうして必要かっていうと、誰かに認めてもらいたい、予算が欲しいってことでしょ? でもね、予算が欲しいって考えながらやるビジネスってあんまり上手くいかないんだよね。どうしてかっていうと、予算承認のプロセスって時間がかかるじゃない。そうするとね、タイミングを逃しちゃう。

一番良いのは「予算をかけない」こと。予算をかけなければキャッシュアウトしない。例えば外注せずに自分たちで全て作る。ここ君ね、ここ僕ね、って感じでキャッシュアウトなしでサクサク作れるし、間違ってもすぐ直せる。

鈴木 会社のガバナンス、ガン無視ですけど、ぜひやってください。最後に4つ目なんですけど、プラットフォームを栄えさせるコツを教えていただけないでしょうか? プレイステーションにゲームプロバイダーが多数参加したように、スマートニュースに記事を多数集めたように、何が必要でしょうか?

久夛良木 やっぱり自分のものだって思わせることだよね。

鈴木 自分のものだと思わせる。

久夛良木 プレイステーションってソニーのものだって、みんな思ってないよね? 自分の思い出がそこにあるじゃないですか。プレイステーションのために、例えばいろんなハードウェアとかソフトウェア提供してくれた人とか、その上で、ましてやゲームを作った人はみんな、自分の作品だと思ってるわけ。

なので、プレイステーションの広告の中で「It's a Sony」というの言い方は一切やらなかった。CMでは「プレイステーション」だけ。すべての人のプラットフォーム、という風にしていったので。でも、とっても大事なことだと思うけどね。まあ普通か。

鈴木 いや、それをできるのはそんなに簡単じゃないですね。やっぱりすごいですね。

久夛良木 いやいやいや。でもそこで、ブーム作っちゃえば勝ちなのよ。

鈴木 自分のものだと思ってもらえる、というところが大事だと。なるほど。すごい染み入ります。ということで、全ての質問が終わりましたが、みなさん楽しんでいただけましたでしょうか? 最後に一言、みなさんへのメッセージをお願いできますでしょうか?

久夛良木 みなさんへメッセージ?
もっとはじけようよね! あのね、特にこの国ってね、はじけ方が足らない。ちょっとこう、頭で考えすぎるんじゃないかと思う。やっぱり未来もそうだけど、どれだけ失敗するかで次があるので、みなさんはどんなに失敗しても何とかなるはず。なんなかったらまた新しい会社作ればいいんだよ。

鈴木 はい。ありがとうございました!

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