“協働”を生み出すプロダクトマネジメント――SmartNewsプロダクト開発責任者・Jeannie Yangインタビュー

“One Product, One Team”の精神にもとづき、日本と米国双方のオフィスで協働しながらプロダクト開発を行っているスマートニュース。その体制をリードしているのが、2018年9月よりSenior Vice President of Productを務めているJeannie Yangです。前職では歌唱アプリなどを手がける「Smule」のプロダクト開発に貢献し、ソーシャル、モバイル、メディア、音楽など多岐に渡るテーマに精通しているJeannieに、浜本階生(取締役 COO兼チーフエンジニア)がインタビュー。これまでのキャリアから、プロダクトへの愛、今後の課題まで、たっぷり聞きました。

構成:スマートニュース 通訳翻訳チーム、Text/平松梨沙

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浜本階生(左)とJeannie Yang(右)

実は「Smule」の大ファンでした

浜本 サンフランシスコオフィスから、SmartNewsの開発に向き合っているJeannie。普段からミーティングやディスカッションをしていますが、今日はじっくり話を聞くのが楽しみです。というのも、Jeannieは「Smule」という音楽プラットフォームを、全世界5000万アクティブユーザーまで成長させたという経歴の持ち主で。

 実は私の趣味の一つは「カラオケ」で、ほぼ毎週JOYSOUNDのある店舗に通ってハイスコアを更新しています。カラオケシステムへのこだわりがものすごくあるんですが(笑)、SmuleのUXには圧倒されたんですよ。単独のカラオケアプリとしても素晴らしいし、コミュニケーションツールとしてのクオリティもすごいんです。

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App Storeより引用

Jeannie スマートフォンのオーディオ・ビデオ機能を活かしながらリアルタイムで処理し、それらの特徴を完全に活用したプロダクトに作り上げるのは、なかなか大変でした。素晴らしいオーディオエンジニアとビデオエンジニアがいたからこそ、成功させることができたと思います。

浜本 他のユーザーとデュエットして作品を公開できる点にも感動したんですよね。デュエット向けに、譜面を複数のパートに分けた曲が多数存在していて、「誰かと歌いたいな」という気分をすごく高めてもらえる。このアイデアは最初からあったんでしょうか?

Jeannie 当初から、心のなかにはありましたね。そもそもSmuleには、3つのミッションステートメントがあります。まずは「Realizing the immense potential of audio(オーディオの計り知れないポテンシャルを実現すること)」。オーディオを人と人をつなぐための手段と信じる、と言い換えることもできます。2つ目は「Belief in the creativity of people(人々の創造力を信じること)」。これは人々に自身のポテンシャルに気づいてもらうことでもあります。

 そして最後が、「Connecting the world through music that they created(人々がつくった音楽で世界をつなぐこと)」。コラボレーション機能は、これらのミッションの中核でしたから、どんなクリエイティブな方法で実現できるか、当初から考えていました。

浜本 ミッションステートメントと機能の間に、確固とした結びつきがあると聞いて、とても納得できました。

Jeannie 自分一人で音楽を聞いたり弾いたり歌ったりしていても、世界のどこかで別の誰かもまたiPhoneに自分の息を吹き込み音を出していることがわかり、自分は世界で一人ぼっちではないことが感じられる。そのことによって、世界が少し小さく見え、その知らない誰かとつながることができる……。私たちはみな生まれながらに「声」という楽器を持っていて、音楽を作ることができる。こうした思いが、Smule開発の核心にありました。

エンジニアからのキャリアチェンジがもたらしたこと

浜本 グローバルマーケットで本格的にSmartNewsを展開していくなかで、私たちはJeannieに声をかけました。日本のスタートアップ企業の多くでは、プロダクトマネジメントがどうあるべきかについて、強いコンセンサスがまだないと思っています。テックカンパニーであっても、プロダクトマネージャやプロダクト担当のVPがいないことが多い。我々自身も悩みながらプロダクトと向き合うなかで、迎え入れる人から、プロダクトマネジメントがどうあるべきか学びたかった。そこでJeannieがこの役割に一番適していると思ったんですね。

 そもそもJeannieは、ソフトウェアエンジニアからプロダクトマネジメントにキャリアチェンジをしていますが、これはどういう理由だったのですか?

Jeannie 正直なところ、自分でも、ずっとソフトウェアエンジニアをやると思っていたんですよ(笑)。コーディングもプログラミングも本当に大好きなので。プロダクトマネジメントに関与するとは、全然思ってなかったですね。

 エンジニアとして、インタラクティブなテレビのソフトウェアを作るところから始まって、ファイアウォールシステムのようなインフラ開発まで、たくさんの技術的な刺激があることに関わりました。でも次第に、自分が携わっているテクノロジーが人々の生活にどんな影響を与えているかということが、わからなくなっていったんですよね。ユーザーとの距離を感じ、ユーザーが何をしているかを理解できなくなってしまった。

浜本 そこで一旦、大学院に戻った?

Jeannie そう。カリフォルニア大学バークレー校の情報大学院に行き、情報学の修士をとりました。人間とテクノロジーの豊かな関係を築くにはどうしたらいいか、そして人間とコンピューターがどのように影響し合うのかを、人文的な側面から解き明かしたくて。大学に残るかどうか悩みましたが、ちょうどYahoo! Inc.(当時)がソーシャルメディアリサーチラボを立ち上げたタイミングだったので、そこに加わることに。同社内でプロジェクトを進めていく際にどんなイノベーションが起きていくのかを見たい思いだったのですが、いろいろなことが重なって、プロダクトマネージャとしてのキャリアが始まりました。これは想定外でしたね(笑)。

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浜本 Yahooの社内インキュベーターであるBrickhouseでプロダクトマネージャを務めてから、2009年ごろ、フリーランスのプロダクトコンサルタントに転身したんですよね。自身で、モバイルニュースアプリ、ゲームアプリなどのプロダクトマネジメントやデザイン、開発などに関する相談に乗っていたと。

Jeannie はい。金融危機まっただなかで職を探すにはあまり適した時期ではなかったけれど(笑)、骨休めをするのによいタイミングでしたね。エンジニアたちがiPhoneのコーディングを楽しんでいるのを非常に羨ましく感じていたので、自分もiPhoneプログラミングや、当時ホットだったRuby on Railsを学ぶチャンスを持ちたかったんです。

浜本 Brickhouseでの経験、コンサルタントとしての経験は、Smuleでのタフな仕事に役立ちましたか?

Jeannie 確実に生きていますね。アプリのエコシステム、申請プロセス、それらに付随する全てのことは、Yahoo以降に学びました。もともとエンジニアとしてのバックグラウンドは持っていたものの、どういった物事が関連していて、技術以外に何が必要とされるのかといったことは、そこで初めて理解できたんですね。Smuleでも、初期は私がリリースエンジニアをやっていました。ちょっとしたコーディングやデザイン修正も、自分でやってましたね。本当に小さい会社でしたから。

 だから私は、「私はよくエンジニアリングのことを知っているから、ごまかせそうと思わないで!」と常々言っています(笑)。

浜本 (笑)。

Jeannie ただ一方で「私の言うことを信じないでほしい」とも言っていて。私が最初に「1ヶ月でできるはずだ」と言っていても、その時点では、いちエンジニアとしてかなり前のめりにスケジュールを見積もっているときはある。その後プロダクトオーナーとして、すべてを考慮に入れ、長期的にプロダクトのことを考えた結果として出す「2ヶ月だよね」が正しい見通しとなるわけです。

浜本 最短の見積もりもわかった上でそうした判断ができるというのは、Jeannieのとても素晴らしいところだと思います。

入社の決め手は、ビジョンとミッションの奥深さ

浜本 こうやって話を聞いていても、まだ不思議なことがあって。

Jeannie なんですか?

浜本 それは、Jeannieがスマートニュースに入ることに決めた理由です(笑)。日本発の企業ですし、声をかけた時点では、USでの我々の存在感はまだ大きくなかったですから。Jeannieのような人に目をとめてもらえるとは思っていませんでした。

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Jeannie スマートニュースに入ることに決めたのはたくさんの理由がありますが、確実に言えるのは、Kaiseiさん(浜本)とKenさん(鈴木健、代表取締役会長兼社長 CEO)の存在です。初めて会ったときから、二人とも、自分の会社に明確な考えとアプローチを持っていることを感じました。二人に限らず、スマートニュースのメンバーの誰かと話すとそのたびに感動し、楽しい会話だったと感じられていました。メンバーが成し遂げようとしていることに、とても深みがあった。会社のビジョンが重要で奥深いことかというのは、自分にとっては非常に重要でした。

「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」というミッションだけでなく、人々の心をテクノロジーによってひらいていき、ゆくゆくはフィルターバブルを打破するというビジョンがある。それだけでなく、SmartNewsというアプリを通じて、人々がお互いに共感できるようにし、相互に対話をする道筋を作ることができるのではないかという希望が持てました。私にとって、こうしたビジョンは本当に強く訴えかけるものでした。それまで、世界で起きている出来事や周囲の人々のディスコミュニケーションを、無力感をもって眺めていましたから。

浜本 はい。

Jeannie これはあまりにも大きな問題で、どのように解決できるか全く考えが浮かんでいませんでした。Smuleでは、音楽で人と人をつなげることはできました。ただ、つながったあと、人と人が考えを変えあうことはできるのか。これは大きなチャレンジで、その壁は大きく感じられていました。しかも世界中の多くの人々は、世のなかの物事を意識的に見ているわけではなく、気づかないうちに浴びている情報量がとても多い。その結果潜在的に、考えが偏っていってしまう人も多いわけですよね。これはあまりにも大きく、未知で、解決不可能な問題だと思っていたのです。だからむしろ、自分もかかわりたいという気持ちになりました。

浜本 こうした話を改めて聞けて、とてもうれしいです!

成長中の企業では、開発体制はいつでも「進行中」

浜本 プロダクトマネジメントの話に戻らせてください。Jeannieは、我々のプロダクトとエンジニアリングの組織に多くの変更をもたらしました。本質的には、どういった変化だと考えていますか?

Jeannie プロダクトマネジメントには、いくつかの段階的なプロセスがあると思います。一番大切なのが、どのようにチームが一体となって協力するか。そのためには、チームをエンパワーする体制が必要です。単純にプロダクトやアイデアをもとに体制を考えても、うまくいきません。チームメンバーが問題に対して最善の解決策を見出せるプロセスを組織に持たせられるよう、プロダクト開発サイクルにおいて、問題に対する解決策を出せるよう、考えないといけません。

浜本 エンジニア同士が協働できるように体制を整えるのが、第一歩ということですね。

Jeannie そう。プロダクト開発のなかでぶつかる問題はとても大きく、一人ずつの力を単純にあわせるだけでは解決できません。プロダクトとエンジニアリングの組織のコラボレーションをどう引き出すか。そしてこの2つを会社のミッションに準じる課題や優先順位に対して、どう位置付けていくか。現在私たちは“Squad”という開発体制を採用しています。小さなテーマごとにSquadと呼ばれるチームにメンバーを分け、それぞれの課題やミッションにフォーカスできるようにしました。これが、私が行った本質的な変更の一つだと思います。

浜本 ミッションを大切にするSquad体制への移行は、全体として、とてもうまくいっていると思います。

Jeannie そしてもう一つの段階として、プロダクトとエンジニアリングの間でどのような体制が敷かれ、取り組みが行われているか、社内の他チームに透明性をもって伝え、どの方向に向かっているかを理解してもらうというものがあります。この点に関しては、下地がととのってきたところかなと。

 最後に、オフィスや地域をまたいでの開発に適切にコミットしてもらうための体制づくりですね。スマートニュースでは、USに住んでいるから日本のプロダクトのことはやらないということはないし、日本で働いているからと言ってUSのプロダクトに関わらないというわけではありません。

 もちろん、いろいろな困難はあります。異なる時間帯で暮らしていますし、言語の違いがあるし。会社のなかでなるべく同じ人たちを一緒にグルーピングすることもときには必要です。とはいえ、この規模だと、あらゆるリソースを最善のかたちで活用していかなければならない。そのためには、どこにいるか、どんな言語を話すかよりも大切なことがある。会社全体のためにみんなで問題解決していくという意識が必要です。この3つが、私が会社にもたらした大きな変化ではないか、と思っています。

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浜本 わかりやすい説明でした。Jeannieの想定に対して、会社の変化は順調に進んでいますか?

Jeannie このプロセスは、きっと常に進行中……WIP(Work In Progress)であり続けるだろうと思うんです。というのもスマートニュースはずっと成長過程にありますから。そのなかで開発体制が完成形になることはない。それはポジティブなことだと思っています。最近は、Facebookでニュースフィードのインフラ責任者を務めたYoulin Liが、Vice President of Engineering, Backend System and Foundationとして、エンジニアリングチームにジョインするという出来事もありました。彼もまた、大きく舵を切るような変更を行っているところです。

 私も、当社のプロダクトに関して、何を最も明快に伝えるかについて頭をひねっています。そしてチームに目標や目的を理解してもらい、それらを設定することの意味を知ってもらうことが重要。まだまだ努力しないといけません。

ユーザーは、一緒にアプリを作り上げる「パートナー」

浜本 地域をまたいでの開発体制の話ともつながりますが、スマートニュースは“One Product, One Team”のスローガンを持っています。日本において、多くのテクノロジースタートアップ企業は、アプリのコードベースを市場ごとに分けて、国固有のマネジメント体制をとっていることが多いですが、スマートニュースは違います。単一のコードベースに専念することのメリットもある反面、システムアーキテクチャと組織構造が複雑になる面もあり、そのこととの向き合いが不可欠でした。Smuleも、同じコードベースで各国展開していますよね。Smuleに関しては、どうでしたか。

Jeannie そうですね。根本的に言えばSmartNewsの開発と同じ点もあるけれど、Smuleは、各国版も同じコードベースで展開するということについて、深く議論したわけではないんです。アプリをUS版とかグローバル版とか定義していたわけでもなく、単純に展開することができるならどこでも展開しようとしただけでした。アーキテクチャも組織も、「他の国でも使ってもらっているならいいことだね。伸びているならフォーカスしようか」という感じですね。

浜本 なるほど。

Jeannie SmartNewsに関して考えましょう。各地域に向けて、それぞれのエディションをローンチする戦略の方が、一つひとつの開発やアーキテクチャはシンプルになると思います。でも私たちのビジョンを会社全体で合わせていくには、今のありかたが良いですよね。同じコードベースに基づき、同じUIでアプリを展開しているほうが、私たちのブランドを真に理解してもらうこともスムーズにできるでしょう。

 ただ、地域ごとのビジネスやユーザーベース、商慣習、コンテンツ消費のあり方といったものは強く意識しないといけませんよね。ビジョンやミッションを一つにしつつ、国ごとに異なるやり方があるということは、みんなで考えていかないといけない。Smuleのときはまだ、「アプリなんて、どこでもリリースしようと思えばリリースできる!」と思ってましたけど(笑)。

浜本 はい(笑)。

Jeannie 広くグローバルに展開していくうえで鍵となるのは、パートナーだと思います。つまり、ユーザーというのは我々にとって単なる消費者ではなくて、一緒にアプリを作っていくパートナーなんです。Smuleは本当に初期のころから、ユーザーと成長をお祝いしてきました。私は今でも、多くの初期ユーザーと友達だったりします。彼らには機能テストに協力してもらうだけでなく、いろいろなフィードバックをもらいました。

浜本 ユーザーをパートナーととらえるのは、とても重要なことだと思います。

Jeannie この考え方は、さらに二つに分解できます。一つ目はユーザーを称えるべきだということ。Smuleでは、コミュニティを称え、彼らが行っていることにスポットライトを当ててきました。彼らのつくる音楽が、我々を支えていましたからね。そして二つ目は、私たちが次に作るべきものに関してインスピレーションをくれる存在としてとらえること。だから、機能開発をするときも、まずは外に出してみて、ユーザーがどうとらえるかを考えることが大切ですね。そこから、可能な限り進化させていく。私たちがいかに彼らをエンパワーし、クリエイティブで表現豊かにさせられるか、ということですよね。

浜本 Smuleは日本を含む世界中で、素晴らしいコミュニティを作ることに成功していますね。

Jeannie 彼らとは、よく話をして理解しなければなりません。一度、これができあがると、間違いや行き違いがあった場合も、彼らは信頼して戻ってきてくれるんです。すごく熱心なユーザーから「いかに私たちが失敗しているか」を教えてもらったこともありましたね(笑)。パートナーとしてのユーザーと、関係性を作ること。これがとても大切ですね。

浜本 これからも、Jeannieから多くを学びながらSmartNewsを成長させていきたいと思います。今日はありがとうございました。

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