「そびえ立つ孤高の本棚」にならないように──スマートニュースのエントランス本棚 完成披露イベント

f:id:smartnews_jp:20190609110432j:plain

スマートニュースでは、日々さまざまな勉強会やイベントが社内で開催されています。今回レポートするのは2019年4月23日(火)にTokyo West Office 2Fのエントランスで行われた「エントランス本棚 完成披露イベント」です。

2018年秋に完成した「17の本棚のある会議室」に続いて、Tokyo West Office 2Fのエントランスにも本棚が誕生しました。それを祝した完成披露イベントに、プロジェクトメンバーの1人であるAd Quality Operations Associateの園川慶さんと、選書を担当したフリーランス書店員の久禮亮太さんが登壇。聞き手はMedia Business Development Managerであり、スマQの共同編集長も務める岑康貴が担当しました。

選書に込めた熱い思いや本棚づくりの裏話をお届けします!

当初は、会社のエントランスを書店にしようとしていた

岑康貴
聞き手の岑康貴(Media Business Development Manager)

── どういう経緯で、エントランスを本棚にすることになったんでしょう。

園川  当初は「このエントランスで書店をやろう」という話だったんですよ。社内の人だけじゃなく、外部の人にも本を売れるような書店にしてしまおうと。

── オフィスの中に書店が……!?

園川  でも、よくよく考えた結果、社内に書店をつくるのは難しいという結論になりました。そこで改めてプロジェクトメンバーと話しました。

スマートニュースは、CEOの鈴木健の自著『なめらかな社会とその敵』(以下『なめ敵』)に込められたような思想を体現している会社でもあります。僕たちは、起業家でもあり、思想家でもある人と働いている。そこで、 自分たちにとってスマートニュースで仕事をするということはどういうことなのか、振り返ることのできるような本棚をつくりたいという話になりました。

園川慶さん
プロジェクトメンバーの園川慶さん(Ad Quality Operations Associate)

最初、健さん家の本棚をここに移植したらどうかという案も出たんですけど、却下されまして(笑)……で、どうしたら健さんの思想に触れられるような棚づくりができるのだろうと悩んでいたとき、たまたま『スリップの技法』という久禮さんの本に出会い、非常に感銘を受け、選書のオファーをしました。久禮さんは、『なめ敵』を日本でもっとも売った書店員さんでもあるんですよ。

── 日本で一番『なめ敵』を売った男がここに……!?

久禮さん  版元から確保できたぶんは書店ですべて売りました。『なめらかな社会とその敵』が出たとき、僕は人文書担当書店員としてあゆみBOOKS小石川店で働いていたんですど、その日入荷した新刊の中から『なめ敵』を手に取った瞬間、「やばい」と思いました。すぐに版元である勁草書房に「今から行きます」と電話して本を取りに行ったのを覚えています。

久禮亮太さん
選書を担当した久禮亮太さん(フリーランス書店員)

なので今回のオファーをいただいたときは、もう冷静ではなかったです。人文書担当書店員としても僕自身としても大きな衝撃を受けた鈴木健さん、彼の会社であるスマートニュースに呼ばれてしまった……「どんな案件だろうとやってやる」という気持ちで来ました。

── 実際のプロジェクト内容を聞いたときは、どう思いましたか?

久禮さん  内心ではいろんな思いがありました。会社のエントランスの本棚って、お客さんが買うという行為を通して参加できる棚ではないですよね。ある種のメッセージを伝えるためのインスタレーションとしての棚づくり……つまり、ブックコーディネーターとしての仕事なら、僕よりもうまい人はいると思います。

僕はブックコーディネーターではなく「フリーランス書店員」を名乗って仕事をしているんですけど、それは書店こそが自分のフィールドだと思っているからなんです。書店にいたほうが、お客さんとの関わりを深められるから好きなんですよね。なので、「書店員の僕でちゃんとこなせるのかな……」という不安もありました。

そびえ立つ孤高の本棚にならないよう、試行錯誤した選書

── 久禮さんと出会い、プロジェクトが始動するわけですね。動き始めてみて、いかがでしたか?

園川  プロジェクト初期の選書では、“鈴木健”にがっつりフォーカスした内容だったんですよ。その選書で本棚をつくると、難解な名著がひしめき合う「孤高の本棚」がそびえ立ってしまう……。

久禮さん  鈴木健さんの思想を世に問うならばこうだ! というような本を100冊ほど選書をしたんですけど、園川さんが政治哲学に造詣が深いのもあって、重たい本ばかりになってしまったんですよね。

園川  今思えば、 これ誰が読むんだろうみたいな、ガチガチの選書でした。 固すぎて……本をリストアップしたスプレッドシートがフリーズしてる感じがするくらいでしたね(笑)。

f:id:smartnews_jp:20190609111034j:plain

久禮さん  僕は、園川さんの選書を否定するつもりはないんですよ。毒にも薬にもならないような当たり障りのない選書なら、やっても意味がないですから。とはいえ、このままでは完全に人を拒むような本棚になってしまうので、どうしようかなと悩んでました。 でも、プロジェクトメンバーのみなさんとのミーティングを重ねるうちに、だんだんと方向性が見えてきたんです。

── 他のプロジェクトメンバーにはどんな方がいたのでしょうか?

園川  メディア事業開発VPの佐々木大輔さん、Office&Communityの青井絵美さん、プロダクトマネージャの遠藤拓己さんです。

久禮さん  遠藤さんとのミーティングのときに大きな気づきがありました。遠藤さんが 「スマートニュースという会社を通じて、どういう人生を築き上げるべきなのかを伝えるような選書にしなければ、みんなこの本棚を自分たちのものとしてとらえないんじゃない?」 とおっしゃったんです。

スマートニュースには鈴木健さんの思想がありますよね。それを社会にどう実装していくかという課題を持って動いているけれど、もうちょっと分解して考えることもできます。スマートニュースは会社としてどんなミッションを与えられているのか、どういう意思に立ち向かっていかなければいけないか、フィルターバブルをどう克服するのか、フェイクニュースにどう対処するべきなのか、社会人としてワークライフバランスはどうあるべきなのか、なぜこの会社に集ったのか……。そういった一つひとつの問いを、遠藤さんがホワイトボード一面に書き出して図解してくれたんです。

f:id:smartnews_jp:20190609114119j:plain

そのときに「これは書店員としての仕事だな」と思いました。 書店の役割はお客さん一人ひとりの漠然とした願望や不安にたいして、言葉を与えていくことです。 遠藤さんとのミーティングをする前はブックコーディネーターとして選書するつもりでいましたが、「書店員としての手法でいいんだ」と視界がひらけました。

── 戸惑ったまま進めることにならなくてよかったです。

久禮さん  ブックコーディネーターもチャレンジングな仕事ではあります。コンセプトを設定して本を選び、強いメッセージを込めた、かっこいい見た目の棚をつくる。そんな選書も悪くはないのですが、完成した本棚はモニュメントになってしまうので、気軽に本に触れられない本棚になってしまいます。今回はモニュメントづくりをするのではなく、 書店員として、スマートニュースのみなさんがこの本棚とどういう風に関わっていけるのだろうと考えながら選書をしました。

選書するために、スマートニュースのみなさんを観察してました

f:id:smartnews_jp:20190609111628j:plain

久禮さん  エントランスの本棚を選書するにあたって、僕は書店員として振る舞って良いのだな、と気づけたのは良かったんですけど、そうすると一つ大きな問題が浮上してしまって……。

── なんでしょう?

久禮さん  この本棚の前に訪れるお客さん、つまりスマートニュースのみなさんの顔が見えないんです。

── と言いますと?

久禮さん  僕は書店でもレジや棚の影からお客さんのことをこっそり見ているんです。書店はお客さんあってのものなので、お客さんがどんなひとなのか観察したり想像したりしながら、そのひとの生活にインパクトを残すにはどうしたらいいかを考えて仕事をこなしています。なので、お客さん……つまり、スマートニュースのみなさん一人ひとりの顔が見えないと、動けないんです。そう率直に相談したところ「 じゃあスマートニュースの社員食堂で食事をしながら従業員の様子を観察しましょう」と提案してもらいました。

園川  社員食堂のSmartKitchenはゲストの方にオープンなんです。一番端っこの席でご飯を食べてました。全体をよく見渡せるよう、向かい合わせじゃなく、わざわざ横並びに二人で座って(笑)。

── 全然気づきませんでした! そんなことをしていたんですね。

久禮さん  それが非常にためになりました。僕はお客さんを見た目だけで判断したりステレオタイプなイメージを持つようなことはしたくなくて、より細やかなペルソナづくりがしたいんです。普段書店にいるときには、このスリップを使ってお客さん像を貯め込んでいるんですけど……。

── スリップ?

久禮さん  スリップっていうのは本に挟まってる短冊状の紙のことです。レジでお会計のときにシュッと抜いたのを、売れた順に積み重ねていきます。ある人が五冊くらい一度に買ってくれたら、それを束にして置いておきます。すると、そのお客さんの願望やライフスタイルや偏愛が見えてくるんです。これは僕のお店の数日分のスリップです。

f:id:smartnews_jp:20190609110144j:plain

久禮さん  例えば、このお客様は『ホモ・ルーデンス』『眠れないほど面白い野球の見方』『武器になる知的教養 西洋美術史鑑賞』という本を一緒に買っていかれた。おそらくビジネスマンとして教養も多少持っていたいと思い購入されたのだと想像できます。ということは、『ホモ・ルーデンス』は人文系の古典ですけど、ビジネス系の棚に置くのが現代的なのかもしれません。スリップの束を見ると、そういう推測が立てられるんです。

本棚をつくるときにも活躍したスリップの技法

f:id:smartnews_jp:20190609110344j:plain

園川  久禮さんとの選書で思い出深いことがあります。僕がつくったエクセルのリストを画面に映して選書の話し合いを進めようとしたら、久禮さんが黙りこんでしまって。どうしちゃったのかな? と思っていたら、おもむろに鞄から紙の束を取り出して……久禮さん、本棚に入れたい本のリストを、自作のスリップにしていたんですよ。

久禮さん  ある種のカード式発想法みたいなものです。これが僕にとって慣れ親しんだ形ですから。園川さんがスプレッドシート上にあげた本のリストも、縦書きにしてカード状にして持って行きました。この行を切り出してペーストしなおして……と、ディスクトップ上で触るよりも、身体的な動作の方が編集作業が進みやすいんです。

── 選書のときにもスリップを活用されていたんですね。

久禮さん  手製のスリップを机の上に並べたり、壁一面に張り出したりしてプロジェクトメンバーみんなで丸バツをつけたりもしましたね。そうやって選書していくうちに「スマートニュースでみんなが共有したい認識は何か」という話に飛び火していきました。

f:id:smartnews_jp:20190609110357j:plain

── 本棚をつくるプロセスは、会社のミッションについて意識を共有するためのワークショップにもいかせるかもしれませんね。選書の過程で面白い発見がたくさんありそうです。

園川  そうですね。本当に、いろんなことがあったな……プロダクト関連の本をここに並べたことも思い出深いです。

── 詳しく聞かせてください。

園川  2018年の9月に17の会議室が完成してから、エントランスの本棚に着手するまで時間があいてしまったんですけど、そのときにVPの佐々木さんが「スペースが空いてるなら3Fの執務エリアにあるプロダクト関連の本を並べようよ」と発案したんです。そこで、エントランスで『プロダクトの書籍展示会』をやりました。

そしたらそれをみた久禮さんが、展示で使ったプロダクト関連の本を、エントランスの本棚づくりのときの選書に混ぜ込んでいったんですね。 そのおかげで、ただ思想関連の書籍を並べるだけで終わるんじゃなく、実装に関する書籍まで存在する裾野の広い本棚になりました。『なめらかな社会とその敵』から『誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論』まできちっと収まっています。

これからは、みなさんの手で本棚を改良していってほしい

Tokyo West Office 2F エントランス
Tokyo West Office 2F エントランス

── そうして完成したのがこちらの本棚なんですね。

久禮さん  はい。本棚の上部は『なめ敵』をはじめとして、鈴木健さんの強靭な思想を体現するような書籍で精密に固めました。そこから、隣の棚に移るとサイエンスフィクションやSF小説、生き物や知性のメカニズムに、人間の身体に関わるもの、そしてメディア向けのコミュニケーションや、生身の人間のディティールに踏み込むようなエッセイ、生活や都市に関する本……といったように、だんだんとグラデーションを描きながら、裾野が広がっていくようなラインナップになっています。

── ストーリー性のある本棚だと思いました。隙間隙間に、個人的に好きな本も置いてあるので、『なめ敵』のコンテキストの中に自分の人生もちゃんとあるんだな、と思ったりもします。あっ、この本もあるんだ! なんて、つい手に取りたくなりますね。

f:id:smartnews_jp:20190609110219j:plain

久禮さん  本棚の前でぶらぶらして、 ふいに一冊の本を手に取る瞬間って、そこに自分の求めていたもの、言葉にならなかったものを発見するからだと思うんです。 選ばれた一冊の本と、それに手を伸ばした人との関係にこそ、面白さを感じます。

── エントランスにある本も、従業員は自由に借りていいんですよね。

園川  もちろんですよ。とにかく借りていただけるのが一番嬉しいです。そして戻すときに、自分の中で「この本があるべき棚はここじゃないかな」と思う棚に戻してください。借りるときにあったのと同じ場所じゃなくても良いです。

── えっ、それでいいんですか!?

久禮さん  はい。エントランスの本棚の一角に「ナショナリズム」の棚があるんですけど、ここは重要な定番書や古典といえる名著を並べて、コアな選書にしたんです。でも、あるときここをみたら、『池上彰の「天皇とは何ですか?」』が置いてあって……面白い驚きでした。

── 青井さん(プロジェクトメンバー)の娘さんが置いていったようですよ。

久禮さん  この本がナショナリズムのコーナーにあるのをみて、確かに、池上彰がやさしく解説する天皇の話もナショナリズムと言えるなと思ったんです。

園川  そういう新しい目線がでてくると面白いですよね。今ここの本棚の並びは僕たちの視点でつくったものだけど、みなさんの手で本の文脈を考えながら並びを変えてもらえると、この本棚はちゃんと使ってもらえてるんだな思えます。どんどん本の並びがリミックスされていけば本棚に新陳代謝も生まれますしね。

f:id:smartnews_jp:20190609110330j:plain

── 今後は私たちが、本を借りて戻すという行為を通じて本棚づくりに参加できるんですね。

久禮さん  借りて戻すだけじゃなくて、棚に置いてあるアクリル板のキャプション内容も自由に変更してくださって構いません。この棚を表現するもっと良い言葉が見つかれば、それに変えてもらいたいです。本の並びを見ながら、「この棚に名前をつけるなら」というワークショップをして遊んでもらっても面白いかもしれません。

園川  キャプションや本の並びだけじゃなくて、表紙を見せている本もみなさんの手で自由に入れ替えてもらえたらと思います。この本棚には、表紙を見せている本と、背表紙しか見せていない本とが並んでいて、今は久禮さんが来社するたびに表紙を見せている本を入れ替えているんですよ。

久禮さん  慣れすぎると良い本が見過ごされてしまうので、見栄えを変えたくて。この本が面白かった、と思ったらその本の表紙を見せるような置き方をしてみてください。

── お話を伺って、エントランスの本棚をどんどん活用していきたいと思いました。本日はどうもありがとうございました!

園川さんと久禮さん
イベント終了後、本棚の前で微笑む園川さんと久禮さん。

▽ 関連記事 q.smartnews.com