本をめぐる「みちくさ」のような体験を――偉人の名を冠した17の「本棚のある会議室」を作った理由

Office&Community 青井絵美さん
Office&Community 青井絵美

スマートニュースのTokyo West Officeは、2018年の秋に2階の会議室スペースを大きくリニューアルしました。リニューアルにともない、全部で17室ある会議室の名前として採用されたのが、世界の偉人たち。

会議室に、地名や花などの名前をつけることはよくあります。スマートニュースの会議室の特徴は、各部屋に、その偉人に関連する書籍を並べた「本棚」があること。本の選書には社員のほか、下北沢の本屋B&Bを経営する numabooks さんにも関わっていただきました。会議室スペース全体も、目的の部屋にたどり着くまでに別の部屋でつい「みちくさ」したくなる、本棚の間で迷ってしまうような独特の設計になっています。

会議室スペースをこのようなつくりにした理由、そこに込めた思想には、どのようなものがあったのでしょうか。自身も読書が趣味で多読派であるライターのチェコ好き @aniram_czech が聞き手となり、この「本棚プロジェクト」の責任者であるOffice&Communityの青井絵美さんに、プロジェクトに対する思いを語ってもらいました。

そもそも、なぜ会議室に本棚を?

 Dijkstra
計算機科学者エドガー・ダイクストラの名を冠した「Dijkstra」。アルゴリズムに関する本などが選書されている。

── 会議室に偉人の名前をつけて、そこに本棚を設置しようと思ったきっかけは、なんだったのでしょうか?

青井 もともと、増床してリニューアルする前から、アラン・チューリングの本が並べられている部屋だけはあったんです。なぜチューリングの部屋がつくられたのかというと、社内で配布しているフリーペーパー「みちくさ」の中で、鈴木健さん(スマートニュース株式会社 代表取締役会長 共同CEO)がその思いを語っています。本を、概念を習得するための効率的な道具として見なすこともできますが、本当の目的は概念の習得ではなく、本と本をめぐる「みちくさ」のような体験ではないかと。

「みちくさVol.1」巻頭言

 つまり今回のリニューアルをする前から、会議室に偉人の名前をつけて、さらに各部屋にその人に関連した本を並べるという構想自体はあったんです。だけどこのオフィスができた当時、最初のチューリング部屋をつくり終えたところで、力尽きてしまった(笑)。そこでオフィスを増床するにあたり、改めて、偉人の名前をつけた会議室と本棚の話が再熱したんです。

アラン・チューリング部屋
CEO鈴木健の思いを体現したアラン・チューリング部屋と、プロジェクトメンバーの青井さん。イギリスのブレッチリー・パークを訪れた際にお土産として買ってきた、自慢のエニグマ・キットも並んでいます。

── ひとつだけ先にポツンとあった、アラン・チューリングの部屋を中心に話が進んだんですね。「本棚プロジェクト」が決まってからは、社内でどのように計画を進めたんですか? また他の偉人を選ぶにあたって、何か基準のようなものはあったんでしょうか?

青井 佐々木大輔さん(メディア事業開発 VP)が「本棚プロジェクト」に関わりたい人を募集して、希望した人がプロジェクトメンバーになりました。半分くらいの部屋はプロジェクトメンバーが各部屋のオーナーとなって担当しつつ、残りの半分くらいは社員から会議室に名前をつけたい偉人を公募してオーナーになってもらい、本棚に並べる本をセレクトしていったんです。オーナーには浜本階生さん(スマートニュース株式会社 代表取締役社長 共同CEO)のほか、エンジニアから、BizDev、Ad Business、Corporate……ほぼ全部署のメンバーがなっています。USのメンバーがオーナーになっている部屋もありますよ。

 偉人の選択基準ですが、もちろん、単に有名な人であればいいわけではありませんでした。その人の名前を冠した会議室がスマートニュースにある必然性を、十分に議論して吟味したんです。メンバーはプレゼン資料をつくって付けたい名前の偉人を提案し、オフサイトも行なって、かなり時間をかけて考え抜いたんですよ。

本の折り目やシミも「味」。インテリアのような本棚にはしたくなかった

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── 本棚の間で迷ってしまうような、つい「みちくさ」したくなる設計にした理由について、もう少しお伺いしたいです。

青井 フリーペーパーの中で「みちくさ」はとても大切な言葉として登場します。私たちがこの会議室に本棚を設置するにあたって、本を、ただのインテリア小物にはしたくないという思いが強くありました。並べてあるのを見るだけではなくて、実際に手にとってほしかったんです。

 スマートニュースのプロダクト自体も「ディスカバリー」を大切にしています。読みたい本に一直線に行くのではなく、目的の本を探し歩いている中で、思いもよらなかった本をふと手にとるような「発見」をしてほしい。本棚を会議室の内側だけでなく外側につくったのも、全体をぐるっと一周できるようなつくりにしたのも、そういった思いがあったからです。

ドリンクを片手に本を物色するスマートニュースメンバー
会議室の外側に設置された本棚と、ドリンクを片手に本を物色するスマートニュースメンバー。ここにはビリー・ホリデイに関連した本が並べてあります。

── 本棚に並べた本は、各部屋のオーナーの選書に加えて、numabooks(本屋 B&B)さんも関わってくれたと聞きました。

青井 はい。各部屋のオーナーの熱量を基本にはしているんですが、とはいえ私たちも本に関しては素人なので、numabooksさんにアドバイザーとして入っていただきました。選書に関して、最終的な決定権は各部屋のオーナーが持っていたんですけど、自分で考えた本以外にもnumabooksさんに興味深いアドバイスをいただいて、とても面白い作業になりましたね。私は建築家の丹下健三さんのお名前を冠した「Tange」部屋のオーナーなのですが、改めて、丹下健三さんって建築以外にも様々な観点から語れる人だなと気付きました。Tangeには、建築から派生させて、デザイン関係の本も入っています。

── 全体でかなりの量の本があると思いますが、プロジェクト全体にかかった期間はどれくらいだったんですか?

青井 2018年の春くらいから始まって、本が入り始めたのが夏から秋にかけてなので、半年くらいですかね。どの部屋にも100冊は本が入っているので、チューリング部屋に加えて16部屋つくるとなると、単純計算で1600冊。100冊以上入っている部屋もあるので、全体では2000冊くらいの本があると思います。

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── 本棚に並べられている本を実際に手にとってもらうため、社員には貸し出しを許可していて、本を家に持って帰ることもできるようにしているんですよね。

青井 Slackに「#library」というチャンネルがありまして、借りる場合はここで報告することになっています。他人が借りている本を見ると触発されるみたいで、特定の本やマンガが、社員の間で一時的にブームになったりすることもありますよ(笑)。絵本もあるので、お子さんのために借りていく人もいます。あとは、マニアックな本を借りていくと佐々木さんが喜んで反応していたり。本をめぐって、社内に新しいコミュニティができていると感じます。

 スマートニュースはメディアの会社なので、インターネットで手に入る情報だけでなく、物資的な本から得る情報も大切にするという発想自体は、そう突飛ではないと思うんです。だけどその発想から、お金も時間もかけて、2000冊近い本を本当に入れてしまうのはすごい。それも、本を入れて終わりではなく、実際に社員に貸し出すところまでやるのだから徹底しています。本に折り目がついてしまったり、書き込みがあったり、お茶をこぼしちゃったり、インテリア小物としてではなく、むしろそうやって実際に使われていくのが嬉しいですね。

 「メディアの会社だから、それっぽい、かっこいい本を選んでください」と、外部に完全にお任せすることもできたと思うんです。だけど、選書に社員が関わって、そして実際に手にとってもらえるようにしたところは、とてもスマートニュースらしいなと思います。

── 担当したTange以外で、青井さんの好きな部屋は?

青井 児童文学作家・翻訳家の石井桃子さんのお名前を冠した「Ishii」部屋です。入るとパッと気持ちが明るくなる気がして、絵本の力ってすごいなと。この部屋には、まだ字が読めないくらいの小さな子が読むものから児童文学まで、どの年齢の子でも楽しめる本が入っています。

絵本が並ぶ「石井桃子部屋」で本を手に取る青井さん
絵本が並ぶ「石井桃子部屋」で本を手に取る青井さん。お子さんのために絵本を借りていくスマートニュースメンバーも多いです。

── ありがとうございました!

渋沢栄一からマーシャル・マクルーハン、手塚治虫まで。スマートニュースの会議室を彩る17名の偉人

こだわりの会議室に興味がある方は、ぜひお近くのスマートニュースメンバーにお声がけください。今後は17部屋の各オーナーに、会議室や選書に込めた思いを語ってもらう予定です。お楽しみに!

  • アラン・チューリング:数学者、暗号解読者。チューリングテストやチューリング・マシンなど、人工知能やコンピュータ科学において大きな功績を残す。

  • ビリー・ホリデイ:ジャズシンガー。黒人女性というマイノリティであり、人種差別や薬物依存と戦いながらも、不屈の精神で歌い続けた。

  • マーシャル・マクルーハン:英文学者、文明批評家。テクノロジーやメディアを「身体の拡張」と位置付けた、メディア研究における最重要人物。

  • 濱田庄司:近現代の日本を代表する陶芸家。柳宗悦とともに民芸運動に大きく貢献。

  • 丹下健三:建築家、都市計画家。国内外で活躍し「世界のタンゲ」と呼ばれるまでに。都市としての東京の発展に貢献。

  • デヴィッド・ボウイ:ミュージシャン、シンガーソングライター、俳優。後世のミュージシャンに圧倒的な影響を与えた。

  • ル=グウィン:小説家。代表作に、哲学を戦いの舞台とした『ゲド戦記』、両性具有の異星人と地球人の接触を描いた『闇の左手』など。SF界の女王と呼ばれる。

  • アレクサンダー・フォン・フンボルト:博物学者、地理学者。近代地理学の祖とされ、植民地主義や奴隷制、地球環境の破壊などにも警鐘を鳴らし続けた。

  • 手塚治虫:漫画家、アニメーション監督。大衆娯楽の中にも科学に対する批判的な視線や生命の価値などのメッセージ性を込め、数々の代表作を世に送り出した。

  • エドガー・ダイクストラ:計算機科学者。ダイクストラ法などのアルゴリズムを考案。プログラミング言語の基礎研究に貢献し、1972年にチューリング賞を受賞。

  • 渋沢栄一:官僚、実業家。フランスで学んだ株式会社制度を日本で実践し、多くの地方銀行のほか、500以上の企業の設立に関わった。

  • ドナルド・デイヴィッドソン:哲学者。分析哲学の流れに属し、行為論、心の哲学、言語哲学において影響を与える。

  • 岩田聡:ゲームクリエイター、プログラマ、経営者。元任天堂代表取締役社長。ファミリーコンピュータの初期タイトルをプログラマとしても複数手がけ成功をおさめる。

  • フローレンス・ナイチンゲール:看護師、社会起業家、統計学者。クリミア戦争での負傷兵への献身のほか、統計に基づく医療衛生改革を行なった。

  • ゲイリー・ガイギャックス:ゲームデザイナー。『ダンジョンズ&ドラゴンズ』などのデザインで知られるロールプレイングゲームの父。

  • 鈴木大拙:日本の禅文化を海外に広く伝えた仏教学者。著書約100冊のうち23冊が英文で書かれている。1949年に文化勲章、日本学士院会員。

  • 石井桃子:児童文学作家、翻訳家。欧米の児童文学の翻訳を手がけたほか、創作も行ない、日本の児童文学普及に貢献。

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